海事代理士になるには ~概要と対策~

海事代理士試験の筆記試験が9月25日に終わり、きっと受験生の皆さまは来月11月26日の口述試験に向けて励んでいらっしゃるのではないでしょうか。この海事代理士試験に合格することで与えられる海事代理士という資格は、別名「海の法律家」とも言われており、明治政府が1908年(明治41)に創設した海事代願人制度が前身です。戦後、日本国憲法発布に伴い、海事代理士法に基づく国家資格となりました。今回はそんな海事代理士試験についてみてみましょう。

【海事代理士の業務内容】

まず海事代理士とは、他人の委託により、国土交通省や都道府県等の行政機関に対して、船舶安全法、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、船員法、船舶職員及び小型船舶操縦者法などの海事関係諸法令の規定に基づく申請、届出、登記その他の手続きをし、又はこれらの手続きに関する書類の作成を業とする者をいいます。海事代理士になるには、海事代理士試験に合格し、海事代理士として「登録」することが必要です。

 

 

【海事代理士試験】

では試験の内容についてみていきましょう。

 

0.試験概要

・申込み期間

海事代理士試験の申込み期間は、例年8月上旬~8月下旬です。

 

・試験日

海事代理士試験筆記試験の試験日は、例年9月下旬です。

海事代理士試験口述試験の試験日は、例年12月上旬です。

 

・合格発表日

海事代理士試験の合否は、口述試験終了後20日以内に公示されます。

 

・難易度

海事代理士試験の合格率は筆記試験が50~55%口述試験が60~90%となっており、法律系の国家資格の中では難易度は低いといわれています。ただし数字上のデータに惑わされてはいけません。専門資格であるため、この中には他の法律資格取得者や実務経験者なども含まれています。あなどっていると記述式試験すら合格できないかもしれません。特に法律初学者にとっては、法律文章の読解や解釈で相当時間を取られるでしょう。

 

・対策

海事代理士六法を片手に過去問題集を何度も解くこと、場合によってはテキストがあると分かりやすいでしょう。法律用語など分からない場合は、簡単な法律用語集などあると良いかもしれません。

 

・海事代理士試験実施団体

国土交通省

公式HP 海事代理士要綱:https://www.mlit.go.jp/about/file000049.html

 

1.試験の内容

(1)筆記試験

■一般法律常識(概括的問題)

憲法、民法、商法(第3編「海商」のみ対象。)

Ⅰ.憲法

憲法は,条文知識と判例知識が出題されます。憲法の条文数は他の条文と比べてかなり少ない方です。全て読むにはさほど時間を要しません。条文や専門書にどんな事が書かれているかが分かってきたら、さっそく過去問を解いて感覚を掴んでみるといいでしょう。ポイントは暗記だけでは対応できないので、解答の解説を自分のことばで説明することが出来るようになるレベルになることだといえます。

 

Ⅱ.民法

民法は、理論、学説、判例まで比較的高度な理解が求められます。ただし、海事代理士試験で、難解な理論や補遺的整合性、学説を正面から問われる事はありませんので,条文と判例を意識して、基本的な民法の専門書と過去問を中心に、そこから逸脱しない範囲で学習を取り組むと良いでしょう。

 

Ⅲ.商法

商法は本来条文数が多く範囲も多岐にわたるのですが、海事代理士試験においては「海商法」に限られるため,学ぶべき内容はだいぶ絞られます。なお、判例も知識については試験ではほとんど出題されないので、「こういう判例がある」程度の知識で良いと思います。民法から先に着手すれば、商法は特別法的性格が強いためいくぶんやりやすいでしょう。

 

■海事法令(専門的問題)

国土交通省設置法、船舶法、船舶安全法、船舶のトン数の測度に関する法律、船員法、船員職業安定法、船舶職員及び小型船舶操縦者法、海上運送法、港湾運送事業法、内航海運業法、港則法、海上交通安全法、造船法、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際港湾施設に係る部分を除く。)、領海等における外国船舶の航行に関する法律、船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律及びこれらの法律に基づく命令。

 

専門的分野となると、一気に範囲が広がります。先述したⅠ~Ⅲで学んだ内容を、より深掘りして理解するところまで落とし込む必要があります。しかも、法令が改正されたり、用語そのものが変化したり、制度や仕組み自体が変わることも少なくありません。そのため、過去問に取り組む際にも出題される法令については、必ず最新の条文に触れるようにしましょう。なお、判例はほぼ出題されることはないので、条文に時間を割くと良いでしょう。

(2)口述試験

本年の筆記試験合格者及び前年の筆記試験合格者で本年の筆記試験免除の申請をした者に対して行われます。

■海事法令

「船舶法」、「船舶安全法」、「船員法」、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」

※筆記試験及び口述試験の回答に当たり適用すべき法令等は、令和6年4月1日現在において施行されているものとします。

 

口述試験は約5分間に試験官より口頭で出題される問題に答える形式で行われます。ある程度基礎ができており、理解が進んでいれば問われている内容が全く分からないということはないでしょう。ただし、短時間の間に適切に答える力が求められます。だいたい四名一組で行われるため、周囲のプレッシャーに惑わされることなく、理路整然と好印象なコミュニケーションを心がけることを意識して口述試験対策を進める必要があります。

 

なお、口述試験対策は試験傾向にとらわれず偏りのないように知識をインプットすることをお勧めします。ヤマを掛けるようなことをしていると、いざ本番で「わかりません」と答えることになったり、お門違いの解答をしてしまうことになる恐れがあるためです。そのため、典型問題を目の前に相手がいると思って、時間を図って説明する練習をしておくと良いでしょう。

 

たとえば「小型船舶操縦者が小型船舶に乗船している者に救命胴衣を着用させなければならない場合を具体的に2つ述べてください。」と尋ねられたら、

 

航行中の特殊小型船舶に乗船している場合

十二歳未満の小児が航行中の小型船舶に乗船している場合

航行中の小型漁船に一人で乗船して漁ろうに従事している場合

小型船舶の暴露甲板に乗船している場合

※【規則第137条第1項から第3項まで】

 

この中から2つ答えるわけですが、4つすべて頭の中に入れておけばいざという時に1つ忘れてしまっても安心ですよね。

 

 

 

2.受験資格

学歴、年齢、性別等による制限はありませんが、試験に合格しても海事代理士法第3条に規定する欠格事由に該当する者は、海事代理士の登録ができません。

 

3.筆記試験の免除

令和5年海事代理士試験の筆記試験に合格し、口述試験に合格しなかった者が本年の海事代理士試験を受験する場合には、受験願書に筆記試験免除申請書を添えて提出することにより、本年の筆記試験は免除され、直接口述試験を受けることができます。

2020年(令和2)2月時点で資格登録者は2152人で、2021年3月末時点で一般社団法人日本海事代理士会に所属する海事代理士は383人。多くが港湾周辺で海事代理士事務所を開業しています。士業のなかでは数がもっとも少ないとされますが、潜在的な需要はある職業です。海事代理士は海事にまつわる複雑な法手続きに熟知し、正しく手続きを完了させることによって船舶の安全な航行環境を法律の面から整え、海の安全を守ることができるやりがいある仕事です。海事に関心がある方は、是非トライしてみてはいかがでしょう。

 

(和田直也)

 

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